大手だけの話じゃない!中小企業でも取り組めるデザイン経営
2025年6月2日

目次
中小企業にとって、”デザイン”は、どこか縁遠いものに感じられるかもしれません。「デザインなんかに気を遣う余裕はない」、そう考えている経営者も多いのではないでしょうか。しかし今、限られたリソースでも実践でき、かつ中小企業だからこそ成果が出やすい経営手法として、「デザイン経営」が注目されています。デザイン経営は、デザインの力で、”選ばれる理由”をもたらす手法です。
本記事では、「そもそもデザイン経営とは何か?」という基本から、中小企業における具体的な導入ステップ、さらには実際に成果を上げた企業の事例までを紹介します。
「デザイン経営」って、大企業の話でしょ?
「ロゴや広告にお金をかける余裕なんてない」「うちは営業力がウリだから」そんな声を中小企業の現場ではよく耳にします。確かに、華やかなブランディングやプロモーションは大企業の専売特許のように思えるかもしれません。でも、実は今、小さな会社こそ“デザイン”を武器にできる時代が来ています。
デザインは、単なる見た目だけにとどまりません。経営手法としてのデザインを理解する「デザイン経営」は、限られたリソースでも実践可能です。「デザイン経営」は、企業の成長に大きな差を生んでいます。
デザイン経営とは何か?中小企業に必要な視点で再定義
「デザイン経営」という言葉から、多くの方はまず、おしゃれなロゴや洗練された広告といったビジュアル面の印象を思い浮かべるかもしれません。しかし、ここでいう「デザイン」とは、単なる見た目の装飾や表面的な演出を指すものではありません。企業の内側にある価値観や意思決定の構造を明確にし、顧客体験に一貫性を持たせるための経営的なアプローチです。デザイン経営を実践するには、以下の3つの視点が不可欠です。これら3つの視点を通じて、デザイン経営は単なるコストではなく、中小企業にとって”選ばれる理由”をつくるための戦略的な手段であることが見えてきます。
考え方をデザインする(経営の価値観・判断軸の明文化)

まず最初に必要なのは、企業として「どのような価値を社会に提供するのか」という考え方=哲学を定義することです。これは単なるスローガンではなく、事業判断や人材採用、商品開発といった経営全般の意思決定を支える軸となるものです。
「何のためにこの事業を行っているのか」「何を大切にし、何はしないのか」といった思考の枠組みが明確であれば、組織全体の行動やメッセージにも一貫性が生まれます。結果として、社内の意思疎通がスムーズになり、社外に対しても“ブレない企業姿勢”として信頼を獲得することにつながります。
伝え方をデザインする(ブランドの表現・言葉・ビジュアルの統一)

いくら良い価値観を持っていても、それが顧客や取引先に伝わらなければ意味がありません。そこで重要になるのが、「伝え方」のデザインです。これは、ブランドのロゴや配色、フォントといった視覚的な要素に加え、キャッチコピーや企業紹介文、プレゼン資料に使う言葉の選び方も含まれます。
特に中小企業の場合、名刺、Webサイト、SNS、会社案内など、外部との接点が限定されているからこそ、ひとつひとつの表現の質と一貫性が大きな差別化要因になります。
デザインによって伝え方のトーン&マナーを整えることは、顧客との最初の接点において好印象を与える重要な手段となります。
組織をデザインする(文化の可視化と体験設計)

最後に、デザイン経営が本質的な力を発揮するのは、組織そのものを“体験として設計”することにあります。つまり、社員のふるまいや社内コミュニケーションの在り方を含めて、企業文化そのものをデザインの対象と捉えるという視点です。
たとえば、社内にどのような言葉が飛び交っているか、会議の進め方や意思決定プロセスにどのような価値観が反映されているか。こうした日々のふるまいが、「この会社らしさ」を形づくります。
その“らしさ”を社内外で共有しやすくするために、ビジュアルや言語化による設計が効果を発揮します。
社員が自社の価値観に共感し、自発的に行動できるような環境を整えることは、採用力や定着率の向上にもつながります。デザイン経営は、単なるブランド戦略ではなく、組織全体の内発的な強さを育てる経営手法なのです。
中小企業こそデザインが武器になる理由
「デザイン経営」は大企業のものではないばかりでなく、中小企業だからこそ取り入れる利点が大きいといえます。デザインによる変化が、ダイレクトに経営成果に結びつきやすいからです。その理由を3つの観点から解説します。
リーダーの意思がすぐに反映されやすいから
大企業では、何かを変えるにも会議や調整が必要とされます。一方中小企業では、経営者の想いや方針がスピード感を持って現場に反映されやすいといえるでしょう。 たとえば「ブランドを見直したい」「この言い回しに統一しよう」といった決断も、即実行できるのは大きな強みです。 小回りの利く体制だからこそ、デザインをスピーディに取り入れ、変化に柔軟に対応できます。
企業文化が育ちやすいから
企業のカルチャーは共有されて初めて意味を持つものです。 中小企業では、顔の見える関係性の中で「私たちらしさ」が日々育まれていきます。 たとえば、ミッションをビジュアル化して社内に掲示したり、名刺や提案資料に言葉や世界観を反映させたりすることで、社員の意識が自然と揃っていくでしょう。デザインによって文化が作りやすいのは、小さな組織の特権です。
顧客との距離が近いから
お客様との接点が多く、しかも距離が近いことも、小さい企業ならではの強みです。 たとえば、店舗のレイアウト、商品説明の言葉、営業時の提案資料、SNSでの発信など、顧客との接点のひとつひとつが、顧客にとっての「その会社らしさ」として記憶に残ります。 だからこそ、デザインを通じて印象や体験を整えることが、そのままブランド価値の向上につながります。
まずはここから!中小企業ができる「デザイン経営」実践ステップ
「デザイン経営」は、大掛かりなことから始める必要はありません。むしろ、今の業務や日々のコミュニケーションの中に、デザインの視点を少しずつ取り入れていくことが第一歩になります。ここでは、特別な知識や予算がなくても取り組める、中小企業向けデザイン経営の実践例を紹介します。
ステップ1:自社の「らしさ」を言語化する

まず取り組みたいのが、自社の「らしさ」や「大切にしている価値観」を明確にすることです。「なぜこの事業をやっているのか」「誰のどんな課題を解決したいのか」「何を大切にしている会社なのか」。こうした想いや信念は、デザインの起点になる大事な材料です。
言語化されていない価値観は、社内でも社外でも伝わりません。逆に、言葉として明文化されていれば、名刺やWebサイト、営業資料などあらゆる場面で一貫した表現が可能になります。小さくても「らしさ」がある企業は覚えられ、選ばれる存在になります。
ステップ2:一貫した伝え方・見せ方に整える

自社の価値観や方向性が明確になったら、次はそれをどう伝えるかを整えていきましょう。SNSのプロフィール文、投稿内容、名刺のデザイン、営業資料の構成、会社案内のトーン&マナーなど、お客様や関係者との接点となる「見せ方・伝え方」の一貫性がとても重要です。
たとえば、「安心感」を大切にしている企業なのに、資料がバラバラでロゴも古く、Webサイトが見づらいままだと、逆に不安を与えてしまうかもしれません。すべてを一度に変える必要はありませんが、顧客が触れる場所から優先的に、少しずつ統一していくだけでも印象は大きく変わります。
ステップ3:顧客体験を観察し、違和感をなくす

デザイン経営は、見た目だけではありません。とくに重要なのが「体験の質」です。自社と顧客が接点を持つタイミングや場所を洗い出し、「不便さ」「わかりにくさ」「ちぐはぐな印象」などの違和感がないか、徹底的に観察してみましょう。たとえば、「問い合わせフォームが複雑で送信できない」「商品パッケージと中身のイメージが合っていない」「SNSの雰囲気と接客対応の温度感が違う」といったズレがあると、信頼の損失につながります。顧客目線に立って体験を点検し、違和感をなくすことで、スムーズで気持ちのよいブランド体験を設計できます。
ステップ4:デザイナーをパートナーにする(外部でもOK)

「デザイン経営」と聞いて、社内にデザイナーがいないと無理だと思う方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。最初は外部のフリーランスや小規模のデザイン事務所でも、デザイン経営の一歩にするためには十分です。重要なのは、見た目を整えるだけの人にとどまらず、企業の価値や体験を一緒に考えてくれるパートナーを選ぶことです。
信頼できるデザイナーは、ロゴや資料のデザインだけでなく、「どのように伝えれば届くのか」「顧客体験をどう設計すればブランドになるか」といった観点からもサポートしてくれます。単発ではなく、継続的に伴走してもらえる関係が築けると、デザインが経営に自然と組み込まれるようになります。
デザイン経営で変革した中小企業の実例
デザイン経営は決して理論だけの話ではありません。ここでは、実際にデザインを経営に取り入れることで、自社の価値を再発見し、顧客との関係性や事業の広がりに変化をもたらした中小企業の実例をご紹介します。
中川政七商店(奈良県)|生活雑貨・工芸品の企画・販売
創業300年を超える老舗企業である中川政七商店は、伝統工芸という日本の文化を次世代に継承しながらも、企業としての成長を模索していました。そんな中で掲げたのが、「日本の工芸を元気にする!」という明確なビジョンです。この言葉を軸に、商品企画・店舗設計・採用活動といった企業活動のあらゆる領域にデザインの視点を導入し、経営を抜本的に再構築しました。
その結果、自社だけでなく全国の工芸ブランドのプロデュース事業へと発展しました。社員数も20人規模から100人以上に成長し、ブランド価値も大きく向上。全国展開を実現する中小企業のロールモデルとなっています。

引用:https://www.nakagawa-masashichi.jp/
木村石鹸工業株式会社(大阪府)|石鹸の製造販売
100年以上の歴史を持つ木村石鹸工業は、もともと業務用製品を中心としたBtoB企業でしたが、自社ブランドでのBtoC展開を目指し、デザイン経営に舵を切りました。立ち上げたブランド「SOMALI」は、製品のパッケージからECサイト、広報ビジュアルに至るまで、“クリーンで丁寧な暮らし”を表現する統一感のある世界観で構成されています。
特に注目すべきは、製品そのものの品質や素材へのこだわりを見える化し、顧客との対話が生まれるような設計を取り入れた点です。デザイナーとの継続的な協業体制を構築し、単なる見た目の刷新ではなく、企業文化自体を「選ばれる体験」へと転換しました。その結果、ECや直販チャネルが新たな収益源として確立され、ブランドの認知と売上の両面で着実な成長を遂げています。

引用:https://brand.kimurasoap.co.jp/somali/
まとめ:あなたの会社の強みは、デザインで伝わっていますか?
「良い商品やサービスを提供しているのに、その価値が十分に伝わっていない」このような課題感をお持ちの中小企業は、決して少なくありません。その背景にはしばしば、伝え方や見せ方の設計に対する認識の差があります。
デザイン経営は、単なるロゴや広告をおしゃれにすることではありません。企業の持つ価値を適切に構造化し、可視化し、体験として届ける経営手法です。デザイン視点での小さな改善の積み重ねが、共感と信頼を呼び、やがて大きなブランド価値の構築につながります。
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